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第二の人生を何処で暮らすのか(4)
居住パターン3-都心や圏域の便利なところに住み替える

 私が担当するコラムでは、まさに第二の人生といえる高齢期を人々は何処で暮らすのかを考えてきました。今回は「都心や圏域の便利なところに住み替える」という居住パターンです。

マイホームで叶わなかった夢
1970年代80年代に東京圏は急速に郊外へ拡大しました。丁度、子育て期にあった団塊世代を中心に、人々は郊外にマイホームを求めたのです。家計を考えて、足の便の悪さはちょっと我慢した人も多く、本当はもう少し便利なところに住みたかったというのが本音でしょう。
ところが最近、当時は叶わなかった願望が実現できそうな状況が出てきました。1990年代に入って地価が下落し、立地条件の良いところにマンションや建売住宅の供給が増えてきたのです。1960年代の後半から減り続けていた都心や都内の人口も1995年あたりを境に増加し続けています。都心回帰といわれるこの現象は、もっと便利なところで高齢期を過ごしたいという希望に追い風となっています。(もっとも、都心や都内の人口増加を、単純に郊外からのリターンと見ることは出来ません。その点に興味のある方はコラム後半の「参考」をお読み下さい。)

郊外拠点駅周辺でのマンション供給も着目
もうひとつ注目される最近の傾向は、郊外でも交通拠点駅の徒歩圏においてマンション供給が盛んなことです。高齢期の暮らしを考えれば、通勤の便ではなく、日常生活に必要なお店や施設、医療や福祉のサービスが利用し易いことが重要です。となれば、都内にこだわることなく住みなれた地域で生活インフラが整っているところで充分なはずです。
子育て期には適していた庭付き戸建住宅も、高齢期には維持管理に手間の掛かる住宅です。積雪地では雪下ろしを嫌って、高齢者が街なかのマンションに引っ越す傾向が見られるようですが、そこまでいかなくても、バリアフリーのマンションは高齢期に適しているかもしれません。

住み替えを支援する制度
 問題は住替えに伴う厄介な事柄をどう処理するかです。日本は中古住宅の評価が低く、売り損にならないかという不安が付きまといます。また、ゆくゆくは資産として子供に相続したいという希望もあるでしょう。
 そこで、マイホームからの住み替えを支援する制度が整備されようとしています。ある電鉄会社では、マイホームをリフレッシュして販売するまでを請け負う事業を始めています。政府も来年度から始まる「住生活基本計画」の中で、持家を借家化するための制度整備を基本的な施策として考えています。
 千葉大学の小林秀樹教授はこうした状況をさらに展開し、店舗や施設が整った郊外の大型団地を高齢者に適した住宅地に再生し、周辺の戸建住宅からの住み替えを促進する「新郊外拠点構想」を提唱されています。いづれにせよ、マイホームを終の棲家とは考えない暮らし方が増えていくのは間違いなさそうです。

「参考」都心回帰という現象
 東京23区及び都心3区の人口の推移は下表の通りです。

地域戦後の最高人口戦後の最低人口(A)2006年7月人口(B)増加(B−A)
23区全体8,893,0941965年7,967,6141995年8,524,495556,881
千代田区122,7451955年34,6001994年41,9487,348
中央区171,311955年63,9231995年96,93133,008
港区267,0241960年145,3141994年188,16742,853
(国勢調査及び東京都推計)

 この10年程の間に23区では約56万人(年間5万人)の人口増があり、都心3区だけでも約8万人の増加です。これは長い間人口減少が続いたことを考えれば、大変な変化といえます。この人口増はどのようにして起こったのかを見てみましょう。
 人口の増減は、出生と死亡の差である自然増減と、転入と転出の差である社会増減の合計ですが、人々の移動が激しい都市では社会増減が大きな比重を占めます。2005年の東京23区では1千人弱の人口の自然減に対して約7万人の社会増であり、人口増は明らかに転入者の増加によるものです。とすれば、郊外から都心への回帰といえそうですが、実態は少し違います。
 7万人のうち、23区以外の東京都や近県3県(神奈川、埼玉、千葉)からの転入増は約2万人、3割を占めるに過ぎません。残りの7割は東京圏外からの転入増なのです。年間2万人の転入増というのも、3千万人といわれる東京圏の人口規模から見ればそれ程大きな数字ではありません。
 もっとも、7万人とか2万人とかいうのは転出入の差であり、転入者や転出者はそれぞれ30万人前後います。郊外からの転入者だけを見ればかなりの数になります。一方で、郊外へ転出する人もいるという訳です。都市はおびただしい人々の移動の結果として、徐々に人口を増やしたり、減らしたりしているのです。

都市生活研究所 鎌田 一夫

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