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夫婦の2007年問題回避への道(1)「定年後の夫の料理の実態」

  いよいよ2007年となり、これまで、企業をはじめ日本社会の中枢で重要な役割を担ってきた団塊の世代が順次定年を迎えることになります。そのような人口移動は私たちの社会生活にもさまざまな影響を与えると予想されますが、夫婦関係の悲観的結末というもう一つの2007年問題が注目されています。夫が定年を迎えた夫婦はさまざまな問題に直面しますが、毎日の食事をどのように用意し、どのように食べるかは、現実的な問題だけに夫婦関係に重大な意味を持つと考えられます。
 そこで、定年後の夫婦関係が危機に陥らないための方策を探ることを目的として、東京圏に住む50・60代の夫婦700組を対象としてアンケート調査(注)を行ないました。今回は、夫の調査結果より、食事用意の実態についてご紹介しましょう。

妻が食事を用意する家庭が9割
 50・60代の夫たちは、普段の食事の用意をどのくらいしているのでしょう。今回の調査で、普段食事の用意をよくする人は「自分」と答えた人はわずか 3.7%、「自分と妻と同じくらい」という人も6.0%だけでした。一方、「妻」と答えた人は88.9%にものぼり、約9割の家庭で普段の食事を妻が用意していました。包丁とコンロで料理をすると答えた人の割合は46.5%(2005年生活定点観測調査では、どの年代の男性も5割強)ですが、普段の食事は妻任せという実態が浮き彫りになりました。しかし、夫たちも時間ができればもっとしてくれるのではないかと期待し、次のように定年退職の前後で比較してみました。

夫が定年退職した後ですら、8割以上の家庭で妻が食事を作っている

 定年退職を迎えた夫についてみると【図1】、普段食事の用意を「自分」がよくするという夫は5.3%、「妻と自分と同じくらい」という人は10.7%で、自分で用意する人は16.0%しかいません。一方、「妻」という人は83.6%であり、定年前の夫と同様、自分で食事の用意をよくする夫は非常に少なく、定年を迎えて時間ができた後も、妻がメインに作っているという家庭は8割を超えていることがわかりました。しかし、自分の食事ですから、夫たちもきっと何か重要な役割をしているのではないかと思い、調べてみました。

定年退職前後でみた、普段食事の用意をよくする人

普段の食事の用意で「よくする」ことは、"お茶を入れる"、"コンロでお湯を沸かす"
 普段の食事の用意でよくしていることについて聞いてみると【図2】、2 割以上の夫が「よくする」と回答しているのは、「急須でお茶を入れる」(34.8%)、「コンロでお湯を沸かす」(31.0%)、「トーストを焼く」(28.1%)、「インスタントコーヒーを入れる」(24.5%)ことでした。トーストと飲み物の用意のような簡単なことはよくしているようですが、コンロや包丁を使う料理らしい料理を「よくする」という夫は2割もいません。

「 中食 ( なかしょく ) 」やカップ麺の利用、妻の作ってくれた料理の再加熱を時々している
 「時々する」と回答された食事の用意で多い項目をみると、「弁当や惣菜、パンを買う」(43.3%)、「カップ麺にお湯を入れる」(40.5%)、「作ってくれた料理を電子レンジで温める」(43.4%)、「作ってくれた料理を鍋で温める」(45.7%)などです。これらは、買ってきて手を加えずに食べられる惣菜や弁当など、いわゆる「中食」の利用や、妻が作った料理を再加熱するだけといった項目で、おそらく妻がいないときに自分のためにしていることと考えられます。このような作業を「よくする」「時々する」という人は、合わせると5割強~6割であり、多数派となっています。一方、包丁やコンロを使って、自分の手で料理を「よくする」「時々する」という人は、4割台にとどまっています。

普段の食事の用意でしていること

 近年、料理に挑戦する男性が増えていますが、ほとんどの家庭で普段の食事の用意は妻任せで、その状況は定年後時間ができてもほとんど変わっていませんでした。夫が自分で用意するときでも、市販弁当などで食事をすませたり、妻の料理を再加熱したりすることにとどまり、コンロや包丁を使って料理を作るという夫は少数派です。普段の食事を、多くの夫たちが栄養バランスなどを考えて作ったり、妻の分まで作ったりすることはまだ遠い先のことなのでしょうか。
 定年後のライフステージを夫婦が互いに尊重しながら一つ屋根の下で暮らしていくには、さまざまな工夫が求められます。ハード面・ソフト面で多くの課題がある中でも、特に毎日の食事をどのようにしていくかということは、先延ばしにできない重要な課題だといえるでしょう。
 今後も、夫と妻それぞれの意識について、興味深いデータをご紹介していきたいと思います。

(注) 東京ガス都市生活研究所『50・60代の夫の料理と妻の意識~夫の料理は夫婦円満の秘訣~』(2002年)

都市生活研究所 松島 悦子

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