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ムードが支配する生活者の気持ち・ニーズ

 3丁目の夕日の大ヒットにみられるように、古きよき時代に憧れを持つ人は多い。多くの人のハートをつかむのは、その時代に生きる人々のもつ温かさである。家族の交流、近所の付き合いなど、人と人との「心温まる交流」に人々は憧れをもつようだ。
その背景には、離婚率の増加、受験、親らしさの喪失など、現代の家族の崩壊の姿をあげる専門家は多い。
 実際に家族は崩壊しているのだろうか。
2008年に行った生活定点観測調査によると、家族の誕生日や記念日にはお祝いをする人が増えていることがわかった。また、その他の家族交流に関する項目をみても、家族交流の機会が減ることはなく、親子入浴の増加など、むしろその機会は増える傾向にある。

家族の誕生日や結婚記念日には何かお祝いすることにしている(あてはまる+やや)

子ども部屋を作りたがらない傾向も、いつも子どもが何をしているかをみていたいという、親の気持ちをうかがわせる。
つまり、世の中の大半の家族は、崩壊しているとはいえない。では、古きよき家族に、なぜ生活者は憧れるのだろうか。
 彼らは、自分が「失った」のではなく「失ったとされるもの」を追い求めている。実際の生活で取り戻すために動くかといえば、それは疑問である。生活者はムードに流されやすいともいえよう。
現在、未曾有の不況といわれているなかで、安いものを買うべき、消費は控えるべきであるというムードが流れ、消費が落ち込んでいる。その状況を「必要以上に買い控えすぎる」と百貨店の女性が話していた。
しかし、実感がなければ長続きはしない。
 ニーズがみえにくくなっているといわれているが、こうした世の中で作られたムードが生活者に影響を与えている状況で、持続するニーズを見極めていくことが重要である。

中塚 千恵

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