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内食化傾向と言えるのか

 最近「内食化」という言葉をよく耳にする。自家用の調味料や加工食品の販売が伸びている理由として、不況のために家で料理をするようになったとの解説がされている。食品だけでなく、ファミリータイプの菓子の売れ行きも好調のようで、内食化の一例として説明されることもある。

 自宅での料理は本当に増えているのだろうか。都市生活研究所で3年に1度実施している定点観測調査によると、約8割が常に週に6~7日夕食を家で作っており、毎日作る人の割合が微減しているものの頻度の減り方は小さい。日々の食事作り自体は変わらず家で行われていることが分かる。バブルが崩壊された90年代を経ても、家で食事を作る頻度が増える傾向は見られず、いわば一貫して内食傾向が続いているといえるのではないだろうか。


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 ただし、自宅での料理において特徴的な傾向が2つある。1つ目は料理時間の短縮化である。料理に手間をかけない人が増えているため、今後も料理にかける時間の短縮傾向は進むことが予想される。2つ目は単身世帯の料理頻度の増加である。もともと自宅で料理する頻度が少なく、しかも料理にかける時間が短い単身世帯であるが、96年以降毎日料理する人が増えている。その背景にはひとり暮らしとなったお年寄りの増加があるものの、未婚のひとり暮らしが家以外で食べる頻度が増加したことも見られる。単身者が料理する大きな理由はお金の節約と健康維持のためであるため、景気の悪化により自宅で料理を行なう単身者がさらに増加することは十分に予測できる。


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 このように、内食化は単身者に見られる傾向であるものの、子どもを持つ標準的な家族世帯では進んでいない。子どもを持つ家庭では、もともと自宅で料理をすることで家族の健康と家計の負担削減を行なっているため、購入する食材を安く抑える工夫をすることはあっても、景気と料理頻度に関係があるとは考えにくい。自家用の調味料や加工食品は、むしろ料理時間を短縮するアイテムとして求められた結果、購買に結びついたと言えよう。また、冒頭のファミリータイプの菓子のように、短縮化のアイテムだけでなく、家族一緒に楽しむ時間を作るアイテムも求められている。今後、食にまつわるヒット商品を生み出すためには、一言で「内食化」と捉えるのではなく、なぜ内食化しているのかをひとり暮らしや家族世帯といったセグメントに分けてニーズを捉えることが重要だろう。

荒井 麻紀子

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