インタビューインタビュー

「食事はいろんなことを楽しむ時間」 ル・ブルギニオン 菊地美升氏

六本木の大人気フレンチ“ル・ブルギニオン”に伺った。ビルの1階にあるものの、素敵な庭が用意されていて外観はまるで一軒家のよう。ほんの十数歩ほどであるがその庭を抜けていき、扉を開けた先に踏み込むと、普段のせわしない都心とは違った世界に入ったような気になる。


ル・ブルギニオンを知ったのは、私が社会人になって数年がたち少し余裕がでてきた頃。「せっかく東京に住んでいるんだし、多少はお金もできたから、大人の食事をしてみたい。おいしいものを食べてみたい」と思って、レストラン特集の雑誌を買ってページをめくるうちに、“Le Bourguignon”の文字、フランスの一軒家の外観、そしてその評価の高さに「ぜひ行ってみたい」と思ったもの。あれから10年以上経ち何度かこのお店を訪れたが、オーナーシェフの菊地さんと密に話をさせてもらうのははじめて。今回は、初来店の同僚の三戸とともにシェフのお話を伺った。


せっかく来てくれたお客さまが「また来たい」と楽しそうな笑顔で帰ってくれるお店がいい

稲垣 ル・ブルギニオンは、本当に素敵なお店ですね。都市生活者にとってフレンチを食べに行くというのはただ単にお腹を満たすためだけのものではありません。シェフはこのお店にきたお客さまにどういったことを感じ、体験してほしいと考えていますか。


菊池シェフ菊地シェフ(以下敬称略) フレンチレストランってやっぱり華麗な場だと思うので、美味しい料理はある程度当たり前だと思うんです。だから、料理の仕込みとかレシピとか作り方とか、もちろん大事なことですが、それ以上に空間としてのお店づくりに重点を置いています。お客さまにいい空間としてハレの場として楽しんでもらいたいので、お店は明るい雰囲気じゃないといけないと思うんです。


稲垣 今日もそうですが、シェフやスタッフの方が、お客さまの帰り際をいつも笑顔で、お見送りしていますよね。以前私が伺った時も、食事を終えて店をでてもう一度お店が見たくなって振り返った時、まだシェフがこちらを見送ってくださっていた時もありました。


菊地 僕はお客さまをお見送りする時に、せっかく来てくれたお客さまが「また来たい」と楽しそうな笑顔で帰ってくれるお店がいいと思っています。レストランってそんな毎週毎週行くようなものじゃないじゃないですか。もちろんすごく食べに行く人もいるかもしれないですけど、結婚式、記念日とか誕生日とか一年に一度とかの楽しみでくる人も多いですから、その期待もやっぱり裏切りたくないです。


明るい雰囲気は、菊地シェフとスタッフの間の“呼吸”から生まれている。今からは想像もつかないが、若い頃は怒ってイライラすることもあったとシェフは言う。お客さまに迷惑をかけたスタッフのミスを大声で叱ったために、他のお客さまからお叱りを受け、ダブルで落ち込んだこともあった。そうした失敗を経験して「シェフの事が嫌いだったらお客さんにもこの料理を気持ちよくおすすめできない」という想いを強くし、日々スタッフの働きやすい職場を心掛けている。そうしたところからル・ブルギニオンのプロフェッショナルなサービスが生まれているのだと感じた。


子どもたちが味に反応をしているのを聞くのが楽しい

フランスでは、“味覚の一週間”という1990年※1から続いている国民的食育活動がある。日本でも2010年よりその考えを踏襲した活動が行われ、日本各地の小学校やレストランなどで、五感を使って味わうことの大切さや食の楽しみを体感できる“味覚の授業”など様々なイベントが実施されている。菊地シェフもこの取り組みに参画している。 ※1:1991年までは“味覚の一日”という名称


稲垣 シェフは食育にも積極的ですよね。“味覚の一週間”の講師もされていますし。食育についてどのようにお考えでしょうか。


菊地 “味覚の一週間”は、すごく大好きな授業です。奥様方がメインの料理教室もいいのですが、あちらは詳細なレシピも必要になりますし、何よりプレッシャーというか、失敗したら奥様方につっこまれたりしちゃって(笑)。子どもはより素直で、すごく反応がいいです。授業は、甘味とか苦みとか酸味とか、そういうのを素直に感じてもらう授業としていて、子どもたちが「甘っ」とか「苦っ」と反応をしているのを聞くのも楽しいですし、そこからの発想を聞くのも刺激になります。授業のあと、よくお礼の手紙をもらうんです。ひとりずつ思ったことをいろいろ書いてくれて。それを読むとすごくうれしいし、刺激になり学ぶことも多いです。


三戸 お子さんからの声は大人からのものとは違って本当に勉強になりますよね。授業はどんなところでされるのですか。


菊地 東京ガスさんのキッチンスタジオとか、ここ数年は近所の小学校でやることが多いですね。子どもたちも普段の授業と違うから記憶に残るようで、お母さんたちにぼくの授業のことを話してくれるみたいです。教えた子のお母さんたちがお店に来てくれて、素敵な授業してくれてありがとうって言ってくれるんです。


稲垣 自宅に帰ってシェフの授業のことを親御さんと話をしているというのが、またいいですね。シェフの授業を起点に親子でコミュニケーションが生まれているというのが、その場かぎりでないものになっているようで。


ある程度時間と気持ちにゆとり持つことが大切

稲垣 私どもの調査では、親も子もどちらも親子料理はしたいと思っているという結果が出ています。でも親は忙しく、子どもの方も意外と親に気をつかっていて、親が忙しそうだから声をかけられないなどの実態があります。シェフは、親子料理についてどんなことを心がけるとよいとお考えでしょうか。
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菊地 うちの家がちょうどやり始めてますね。子どもの料理ですから、ある意味好きにやらせるのがいいかなとは思ったりもします。それがやっぱり興味になるし。たとえば、切りそろえるっていうのはすごく難しい。ぼくら料理人がやっても難しい。そこを期待しても無理ですから、バラバラがあれば不揃いでいいのかなって思います。で、食べてみたら、ちょっと生っぽいのと、火がはいってるのがわかると。これは切り方がそろってないから、こっちは固くてこっちは柔いんだって。


三戸 なるほど。私もそうなんですけど、子供と一緒に料理をやるとどうしても怒ってしまいます。早く、きれいに、みたいに思ってしまって。せっかくの親子料理の時間が逆効果になってしまうことも。親のほうも心持ちを変えないといけませんね。


菊地 僕もうちのお店でやったら怒りますけど(笑)。子どもがやるぶんには、そういうものかなって気づかせる。失敗から学ぶように。あとはだんだん上手になっていくと思います。ただペースとして、子どもとやるとすごい時間がかかっちゃうのである程度時間にゆとりがある時にやらないといけないとは思います。


子どもが興味をもつ簡単な料理から。子どもの満足感も大切に

菊地 あとは子どもが興味をもつ料理ですかね。ハンバーグとか、ギョーザとか。ギョーザなんか子どもの包み方なんて適当ですよね。でも教えれば、できるようにもなってきます。できなくてもくっついてりゃ焼けますんで。


三戸 そうですね(笑)。それはまたそれも個性的な感じで?


菊地 個性的です(笑)。だからなんか違う形になってたりもしますし、だいたいが肉詰めすぎちゃったりですね。そういうので、手伝いから始めるっていうのかな。あとは簡単な料理を作らせてみるとか。たとえば、ウィンナー焼くだけとか、肉を焼くだけとか。僕がそうだったんですよね。自分が小学校高学年くらいかな。魚肉ソーセージを五ミリ幅くらいに斜めに切って、フライパンでサラダ油でカリッと焼くんですよ。焼き色を付けるように。焼き色がついてカリッと焼けたら最後に醤油をチャラっと回しかけて、食べるんですよ。これがすごく大好きで。


三戸 美味しそうですね。


菊地 子どもながらに自分で作ってうまくできてるって思ったりとか、親戚のおばさんが作ってくれたらおれの方が上手いよとか(笑)。そういう、子どもながらの満足感が大切ですね。うちの子なんかも作って「すごくおいしい」って自分で言って食べてます。生ラーメンありますよね。あれの上に乗せるもやし炒めみたいなのを作って、食べてるんです。「すごいこれ美味しい!」って。僕からすると誰が作ってもだいたい美味しいでしょって思うんですけど(笑)。だけど、美味しいねっていって食べる。ひと口頂戴って言ってもらったりとか。


稲垣 そういう会話が生まれてくるのも親子料理のよさですね。親子の関係もよくなりますし、そうすると親も子もそれぞれ満足感が持てますし。


三戸 私も小学校4年生の子どもがいるので、もう少し任せて作らせてあげてもよいかもしれませんね。


菊地 それはぜひ作らせてあげてください。難しいものを作ろうとすると無理なので、簡単なものを。野菜炒めとか、カレーとか。手を切ったりとか、やけどとかは当然させたくないですけど、そういうのは最低限気をつけながら、どんどん作らせてあげればいいのかなと。


三戸 ある程度見守るというか。小学校の高学年くらいになってきたら。失敗から学ぶじゃないですけど。親がやってあげないで、一つ自分で作らせるみたいなのが大事ということですね。


『あなたとずっと 今日よりもっと』

稲垣 私どものコーポレートメッセージは『あなたとずっと 今日よりもっと』というものです。今まで続けてきたよいものは継承していくとともに、それ以上のものを生み出していきたいという意味です。シェフにとっての『ずっと』『もっと』にあたるものは何かありますか。


菊地 そうですね、ブルギニオンというこのお店を『ずっと』続けていくことでしょうか。そして、そのためには、まず僕がこのお店にいつづけないといけないと思いますし、僕が『もっと』スキルアップしていかなければいけない。僕がいて、僕が作って、みんなもいてくれて、それによって料理の安心感、安定感はありながらも、少しずつこないだより美味しくなっていたり、サービスもちょっとずつよくなってるとか、そういうことを目指しています。


電気やガスは暮らしていくうえで絶対必要なもの

稲垣 私どもはその名の通り、都市ガスを、最近では電気も売り始めたエネルギー会社です。エネルギーは空気みたいな存在で、具体的なイメージがわかない、東京ガスが何をやっているか何となくわかるようでわかならい、とよく言われます。シェフにとってエネルギーってどういう存在ですか?


20170705-10.jpg菊地 いや、空気って超大切ですよ。電気、ガス、水道などのインフラがあるのは、普段は当たり前のように思ってますけど、地震とか何かがあった時、いちばん最初に困るのも、ガスとか、電気じゃないですか。電気やガスを生産して、供給していただくというのは、すごく大事だと思います。だから、電気料金ガス料金、ある程度高くなっても、そりゃしょうがないのかな、安全を考えれば、というのはあります。


三戸 弊社も安全・安心を一番大切にしています。その上で、料金もできるだけお得になるようにしています。ガスと電気をセットで使っていただいたり、床暖房やミストサウナなどとセットにすれば。


菊地 そして今、我が家は電気も東京ガスさんにお願いしております。以前よりお得になっています。


稲垣、三戸 ありがとうございます!


店を去る時、いつも同じようにシェフは店の扉の外にでて笑顔で我々を見送る。今日も我々が見えなくなるまで見送ってくれているのであろう。そして「今後はいつこようか」と考えている自分に気づく。
ホールから受け取ったオーダーを読み上げるシェフの快活なフランス語とそれに応えるスタッフの声とともに、楽しい食事の時間が奏でるおしゃべりの音が絶えない“ル・ブルギニオン”がこれからも続いていくのであろう。


ル・ブルギニオン Le Bourguignon
住所:東京都港区西麻布3-3-1
電話:03-5772-6244
営業時間:ランチ11:30~15:30(L.O 13:00)、ディナー18:00~23:30(L.O 21:00)
定休日:水曜日・第二火曜日


オーナーシェフ 菊地美升(きくちよしなる) 氏
1966年北海道函館市生まれ。辻調理師学校卒業し、20歳で東京・六本木「オー・シザーブル」に勤める。25歳でフランスに渡り、リヨン、モンペリエ、ブルゴーニュ、イタリア・フィレンツェで修業し、帰国。東京・青山の「アンフォール」を経て、2000年「ル・ブルギニオン」オープン。

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