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家族の共有行動と中学生の幸福感

個人化が進み、集団としての家族よりも個人の価値観や生活を優先する傾向があるといわれるが、子どもたちは家族とどのような行動を一緒にしているのだろうか。今回は、中学生の調査(注1)より、家族のさまざまな共有行動と子どもの幸福感についてご紹介しよう。

■家族の共有行動は、テレビと夕食
 アンケート上で、中学生に家族とどのような共有行動を行なっているか聞いてみた。下図の行動の中から、家族とよく一緒にすることをすべて選んでもらったところ、回答率が高かったことは、1.テレビを見る、2.夕食を食べる、3.外食をする、4.映画を見る、5.菓子を食べる、である。男女別では、女子で、菓子を食べる、ショッピング、食料品の買い物、料理を作る、親戚訪問、音楽鑑賞、勉強をみてもらう、などの回答率が有意に高く、男子では、ゲームやスポーツ観戦が高い。学年別では、中1でゲーム、スポーツをする、旅行する、勉強を見てもらう、の回答率が高く、中3でもゲームが高い。なお、母親の就労状況による違いはみられなかった。
 この設問は、行なっている頻度ではなく、主観的によくすると認識しているか否かを聞いており、実際の頻度は行動によって大きく違うと考えられる。ちなみに、夕食を家族揃って食べる頻度は「週1・2回」と答えた中学生が多い。

図1 家族との共有行動(家族とよく一緒にすることはあるか)(複数回答)
図1 家族との共有行動(家族とよく一緒にすることはあるか)(複数回答)

■日常的行動の共有と、子どもの幸福感
 次に、こうした家族の共有行動が、子どもの幸福感にどのような影響を与えているかみてみよう。それぞれの行動について、家族と「よく一緒にすること」として回答したか否かで、幸福感の平均値を比較した。その結果、回答した人の幸福感(注2)が有意(p<0.01)に高かった行動は、夕食を食べる、料理を作る、掃除をする、食料品の買い物、ショッピング、外食、親戚訪問、スポーツをする、スポーツ観戦、散歩、旅行、ドライブ、映画をみる、音楽鑑賞、勉強を見てもらう、である。旅行やドライブ、親戚訪問といった非日常的なイベントだけでなく、食事や料理、食料品の買い物、掃除、勉強を見てもらう、といった日常的な行動を共有する場合にも子どもの幸福感が高かった。
 一方、有意な差が認められなかった共有行動は、テレビを見る、菓子を食べる、ゲームをする、の3つである。菓子ではなくて食事で差があり、テレビやゲームではなくてスポーツや旅行、散歩、音楽鑑賞、映画鑑賞、料理を作る、勉強を見てもらう、などで差があった。活発に身体を動かしたり、感覚に強く訴えたり、感動や達成感を味わえたりする行動を共有する場合に幸福感が高かったといえる。

■時間や経験の共有に意味がある
 なぜ、このような共有行動をする場合に子どもの幸福感が高いのか、その理由をコミュニケーションに注目して考えてみたい。池田氏によると、コミュニケーションには、相手の認知構造や感情・行動を変更しようとする目標と、経験や感情、知識、意見を相手と共有(shearing)しようとする目標がある(注3)。日本語の定義では、伝わった伝達先に対する「効果」に重きがおかれるようだが、英語の動詞(communicate)の語源は、多くの人に共通のものとすること、分かち合うこと、分け与えること、分けること、であり、伝達先だけでなく伝達元にも焦点が当たっている。コミュニケーションには「共有」の概念が含まれ、共通の時間や経験を共有することそのものに意味があり、そのようなリアリティの共有が社会関係を維持・強化するベースにあるという。

■強いリアリティの「共有」感が親子関係の鍵
 もちろん、「共有」感の程度には、共有行動の頻度や時間、場所、当事者の年齢など様々な要因が影響するだろうが、今回の調査結果から、リアリティの共有を強く感じられる行動の共有体験が家族のつながりを強め、子どもの幸福感を高めるといえるだろう。
 非日常的なイベントだけでなく、日常生活の中でも、家族で料理や買い物、掃除などを協働したり、食事をしたり、音楽や映画を鑑賞したりすることなどを通じて、達成感や感動を共有することが家族関係を深め、よい親子関係を作る鍵になっている。

注1:首都圏在住の中学生720人(発送数2,137件)を対象としたアンケート調査 (2004年12月実施)
注2:中学生の幸福感は、身体面、心理面、社会面、自分の未来を創造する力の4つの構成概念からなる木村・畠中のwell-being尺度を用いた。
木村直子・畠中宗一、2003「家族生活の充実と家族の情緒的関係に対する肯定的認識が中学生の「ウェルビーイング」に及ぼす影響」『家族関係学』22
注3:池田謙一、2000『コミュニケーション 社会科学の理論とモデル5』東京大学出版会

都市生活研究所 松島 悦子

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