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海外「食」事情レポート(5)新たな発見炎の調理の魅力

 さて、家事に仕事に忙しいイタリアのマダムたちは、普段どのように食事作りをしているのでしょうか。スピードが要求される現代のイタリアのキッチンで生まれたのが「ラ・クチーナ・エスプレッサ」と言う概念です。

ラ・クチーナ・エスプレッサって何ですか?
クチーナは「料理」、「エスプレッサ」は早いと言う意味です。しかし、ラ・クチーナ・エスプレッサは単なるスピード料理ではありません。旬の新鮮な素材を使い、その素材の良さを活かすために加熱はごくごく短時間。段取りよく、いくつかの調理を同時に済ませ、食事の時間は家族との語らいでゆったり過ごすのがラ・クチーナ・エスプレッサです。
実際にイタリアでマダムが見せてくれたラ・クチーナ・エスプレッサをご紹介しましょう(図1)。

図1.イタリアマダムはコンロを駆使してラ・クチーナ・エスプレッサ
図1.イタリアマダムはコンロを駆使してラ・クチーナ・エスプレッサ

4口コンロをフルに使って、3品同時に作ります。左奥のコンロでは、パスタのお湯を沸かしています。左手前のコンロでは、鶏の手羽肉とジャガイモ、ミニトマトのソテー。蓋をするのが、短時間で火を通すポイントです。ソテーと言うより、蒸し焼きといったところでしょうか。右手前のコンロは、パスタのソースを煮ています。右奥の洗面器のような鍋では油を加熱し、野菜のフライの準備です。日本でしたら、サラダや温野菜などサッパリとした野菜を付けあわせにするところですが、野菜のフライを添えるところがイタリア風でしょうか(?)。
できあがりが、図2です。たった20分でこんなに豪華な料理が出来上がりました。これが、まさしくラ・クチーナ・エスプレッサです。

パスタ ポモドーロソース鶏の手羽のソテー野菜のフライ
パスタ ポモドーロソース鶏の手羽のソテー野菜のフライ
図2.ラ・クチーナ・エスプレッサでこんな素敵な料理があっという間に出来上がり!

ガスコンロだからこそ、ラ・クチーナ・エスプレッサ
ラ・クチーナ・エスプレッサは、新鮮な素材を使って、その素材の持ち味を活かすために短時間加熱がポイントですが、実はガスコンロだからこそ、ラ・クチーナ・エスプレッサはできるのです。

(1) 全開で同時調理をする

 短時間で調理を終了させるためには、同時調理が不可欠です。イタリアでは4口、5口のコンロをフル活用して、ぱぱっと調理を同時進行させます。日本では、3口、2口コンロが主流ですので、コンロとグリルを同時活用して4つまたは3つの調理を同時進行が良いでしょう。
 また、短時間で調理をすすめるためには、フルパワーでお湯を沸かしたり、炒めたり。強火も欠かせません。
実は、IHコンロは、内線規定という決まりがあって、コンロ全体で4.8kWまでしか電力を使用することは出来ません。最近のIHコンロは1つのコンロで3kWの電力を使用するパワフルタイプがありますが、もし3kWコンロをフルパワーで使用すると、他のコンロは残り1.8kW内でしか火力を調整できなくなってしまうのです。ですから、3kWタイプのコンロの場合、前面2口のコンロを同時フルパワー使用できないと言うことです。
また、3口コンロでは、通常奥の小コンロとグリルが切り替え式になっていますので、同時には使用できません。奥のコンロで味噌汁を温めながら、グリルで魚を焼くことはできないのです。
IHコンロで同時調理ができないことは、意外に知られていません。

(2)料理に合った鍋を使う
さっと煮るときはゆきひら鍋で、ちょっとした炒め物はアルミのテフロンコーティングのフライパンで、というように、調理をおいしく、しかも短時間で調理するためには、料理に適した鍋を使うことが重要です。
イタリアで驚いたのは、予想以上に料理に合った様々な形状、素材の鍋を使っているということです。例えば、日本ではホットプレートで焼く鉄板焼き。イタリアマダムは、なんと大きな鉄板を出し、2つのコンロを覆うようにその鉄板を置いて調理していました。

「ホットプレートを出す手間もいらないし、これは是非日本で紹介しよう」
と勇んでかえってきたのですが、残念なことに、日本では安全性の問題で、2口を覆う鉄板の使用は不可だそうです。
2口を覆う鉄板は使えませんが、アルミ、土鍋など様々な素材、ミルクパンや中華鍋など様々な形状を、料理の内容、量に応じて、使いこなすのが、ラ・クチーナ・エスプレッサを上手に行なうための鉄則になります。

次回は、日本版ラ・クチーナ・エスプレッサ5か条を紹介します。

都市生活研究所 小西 雅子

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