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「住み替え」行動に変化? ― 住宅双六という幻想が崩れる

 人々はライフサイクルに合わせて住宅を住み替えていきます。親元から独立したり地方から上京して会社の寮や単身アパートに住み、結婚後に社宅、ファミリー型賃貸、公団・公社住宅などを経て、分譲マンションに住んだ後、戸建のマイホームを取得する、といったのがひとつの典型です。かつてはこうした住み替えを、寮を<振り出し>に戸建マイホームを<上がり>とする住宅双六と呼んでいました。双六ゲームと同様に、出来るだけ早く<上がり>にまで進んでいくことが、人生のひとつの目標だったのです。
 しかし、近年この住宅双六は幻想であって、現実とは違っているといわれ始めました。そのひとつが、戸建マイホームが終の棲家ではない、住み替えの<上がり>ではないということです。医療や福祉のサービスを考えると、高齢のご夫妻にとって郊外のマイホームは必ずしも住みやすい住宅とはいえません。高齢単身者にはなお更です。マイホームを売却または運用(賃貸)し、バリアフリーで交通利便性の高いマンションなどへの住み替えを支援する制度も幾つかつくられ始めています。本当の<上がり>は、マイホームのもうひとつ先なのかもしれません。
 さらに、年功序列の賃金体系が変化したことの影響も出ています。将来の賃金上昇を見込んで、徐々にレベルアップしていくような人生設計が立て難くなったのです。かなり若くして持家を取得する人がいる反面、住宅双六に最初から参加しない人が増えています。そして、その背景には都市圏における持家の増加と少子化も影響しています。団塊ジュニアとも呼ばれる第2ベビーブーマー以降の世代は親から住宅を相続する可能性が高いのです。相続した住宅に住むか否かは別にしても、親世代のようにマイホーム取得を人生の目標にする意味がないわけです。
 郊外マイホームを<上がり>とする住宅双六は、都市の郊外拡大があってこそ成り立っていました。やがて世帯数の減少を向かえる縮小社会では、都市の郊外拡大もありません。ハウジングの状況は大きく変化しつつあり、階段を登り続ける住宅双六に代わって、「その時々のライフステージに合った住宅を選択する」という新たな住み替えの価値観が生れつつあるといえます。

マイホーム借上げ制度の特徴
中間法人 移住・住みかえ支援機構の「マイホーム借り上げ事業」
(同機構のホームページから)
鎌田 一夫

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