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生活の彩りの行方

 来客時など、花は、かつて「ハレ」の日に飾られることが多かったが、ここ数年は、「ケ」に飾ることも増えた。その背景には、500円から1000円の低価格帯で売られる花束の存在が大きいと考えられる。つまり、自分や家族が楽しむだけの花、つまり「ケ」のときに飾る花が増えたのだ。フラワーアレンジメントが流行したのも、日常生活で花を楽しみたいという気持ちが高まったからではないだろうか。

 しかし、その傾向は現在、頭打ちにあるようだ。当研究所が2005年に実施した生活観測調査では、約10年前と比較して、自分の家に飾るための花を買う頻度が減っていることがわかる。

 その理由を、生活者に聞くと、花のある暮らしの潤い感は認めるものの「(枯れるので)長く楽しめないのでもったいない」「枯れた花を片付けるのが面倒くさい」「買う時間がない」などの理由が挙げられた。「面倒くさい、もったいない」といった感情に花のある喜びは負けてしまうのである。実際、花業界は、現在、長持ちする品種の開発と普及に熱心に取り組んでいるという。

 また、この傾向は、調理にもみられる。調理を省力化する理由には、「せっかく作ってもあっという間に食べ終わってしまう」「汚れたお皿や調理器具を片付けるのが面倒」という気持ちが影響する。ここでもまた、面倒くささが、手づくりの喜びを上回ること、しかも、その頻度が多いことがわかる。

 現在、その先に楽しみや喜びがあろうとも、面倒くささを乗り越えられない人たちが増えている。しかし、その一方で、田舎暮らし、スローフードというように、手間のかかることを楽しむ人も増えている。ひとりの人が、その両方を楽しむことも、もちろんある。

 物事の片側だけを見ることなく、一見、二律背反している生活を、どう生活者がバランスさせていくかを予測することが、今後の生活を占う鍵になるのではないだろうか。

「10年前に比べると自分の家に飾るための花を買うことは減っている」アンケート調査結果グラフ

都市生活研究所 中塚 千恵

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