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第二の人生を何処で暮らすのか(居住パターン5――田舎暮らしとマルチハビテーション)

根強い田舎暮らしへの志向と移住できない事情
 都市生活者にとって、リタイアー後は田舎でのんびり過ごすのが夢という話はよく聞きますが、前回のコラムで触れた「移住」となると、かなり重い決断になります。家族が一緒に移住できない、友達や地域とのつながりを保ちたい、病院など老後に必要なサービスに不安がある等など、完全に都市生活と別れるのは難しいことです。
 もともと都市生活者は都市生活と田舎暮らしを上手く使い分けたいという志向が強いようで、総理府が行った調査でも大都市住民の半数は「平日は都会で、休日は田舎で」を望んでいます。リタイアー後は平日休日にとらわれず、もっと自由な使い分け、暮らし分けが可能になります。そこで問題は、都会暮らしと田舎暮らしに対応した二軒の住宅が必要なことです。

総務省「マルチハビテーションに関する調査」(平成13年、13大都市住民)


世帯数を上回る住宅ストックの活用
 二軒以上の住宅を使って暮らすことをマルチハビテーションといいます。別荘が一般的ですが、都心と郊外に持つ住宅を使い分けるといった例もあります。いずれにしても、ちょっと贅沢な暮らし方です。だが、最近は少し事情が変わってきました。人口減少時代を迎えて世帯数を住宅ストックが上回り、大量の空き家が生じ始めたのです。
 平成15年の調査で、空き家は全国で約660万戸、全住宅の12%を占めています。空き家のうち6割は賃貸用、売却用の売り出し住宅ですが、別荘などが50万戸、住み手が居らず使われていない住宅が210万戸あります。都市部で住宅が新築される一方で、地方や農山村部で空き家が生じているのです。郷里の実家を相続したが使わずに置いてあるという方も多いのではないでしょうか。
 軽井沢などで別荘地の地価が上昇しているようですが、全国で見れば地方の地価は安く、加えて中古住宅が手に入り易い時代になってきています。二軒の住宅で暮らすのも、あながち夢ではなくなりそうです。とすれば、次に問題になるのは上手に使いこなせるか否かです。

条件を整えてしっかり住みこなす
 長年、別荘をセカンドハウスとして住みこなしているOさんの体験からそのポイントを探ってみましょう。  季節ごとに住み分けるケースは別にして、週単位月単位で出かけるには移動時間がポイント。Oさんは車で2時間を目安に土地を探したといいます。これなら、仕事を終えてから出かけられ、急用でも帰ってこられるからです。また、都市の住宅にない魅力を備えること。Oさんは居間空間の広さを実現しました。さらに、積極的に使いこなす工夫です。Oさんは幾つかの友人グループを定期的に招いています。招くといっても改まった招待ではなく、場所を提供して一緒に楽しむという趣です。
 「時々出かける別荘感覚では、結局使わなくなってしまう。第二の生活拠点として、とにかくそこで過ごす時間を多くしなければつまらない。」これがマルチハビテーションの極意かもしれません。

鎌田 一夫

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