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生活者視点の難しさ

 多くの企業で強く認識されているのは、顧客の立場にたつこと、つまり、生活者視点で求められる商品やサービスは何かを考えることである。しかし、生活者視点で考えることは案外難しい。生活者のニーズを知るために、アンケートやインタビュー調査がよく行われるが、調査をするだけでは、実態が把握できただけで、生活者視点にたったとはいえない。


 では、生活者視点に近づくために必要なことはなにか。大きく3つある。
 1つは、生活者の実態や意識の測り方について、再考することである。インターネットを利用する調査が増え、誰もがアンケート調査を簡単に実施できるようになった。アンケート調査では、ワ―ディングに代表されるように調査票を作るテクニックが必要だが、テクニックが活用されていないケースが増えてきたように感じる。
 生活者のニーズをとらえるためには、ニーズを測る調査票は重要であり、調査会社任せだけにしてはいけない。そのためには調査を発注する人も、最低PRワ―ディング技術について学んでおく必要があるだろう。


 2つめは、データの解釈にあたって客観的な視点をもつことである。企業や個人の視点のみで分析をしてしまっては意味がない。自分の生活からは理解できないことを無視したり、解釈をゆがめてしまうことは気づかずに行われている。思う結果がでなかった場合に、調査対象者が悪かったと現実を認めようとしないこともある。
 マーケティングは、生活者の気持ちを中心にした活動である。そのためには、客観的にデータを見つめることが重要である。事実は事実としてうけとめ、また、分析した結果について、意見や反論があったとしても無視せずに、「なぜ」なのかを考え、解釈の引き出しを増やしていくことが重要である。


 3つめは行動の裏にある生活者の気持ちが何かを考えることである。複数の事実の裏には共通の気持ちやニーズをとらえることは、生活者の喜びにつながる提案に当然のことながら近づける。
 さらに、企業にいる人々は、当然のことながら生活者視点でとらえたものをそのままにすることなく、自社商品やサービス、流通、プロモーションとの組み合わせを考える必要がある。自社にリソースがない場合には他の企業とのアライアンスなども考えていかなくてはならない。市場創造には生活者ニーズのみならず、自社の強みを活かすことが差別化の要素となる。生活者の気持ちとはダイレクトに結びつかないことに対して接点をもうけることが必要だ。
 生活者視点の欠けた商品やサービスは市場のなかで認知されにくい。素直で謙虚な気持ちで、暮らしと生活者を見つめられ続けること、自分のなかに解釈の引き出しをたくさん持てることが生活者視点に近づくカギとなるだろう。

中塚千恵

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