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自転車事故を防止するためのキッズデザイン

 最近、メディアで自転車の歩道通行に関する話題が頻繁に取り上げられています。これは、警察庁が全国の警察本部へ通達した、「自転車交通総合対策」(平成23年度10月25日)が関係しているものと思われます。都心部では、震災等の影響で通勤等に自転車が利用されるようになりました。その結果、以前より自転車と歩行者の事故が急増しています。
 今回は、自転車と関連のあるキッズデザイン賞の作品を紹介してみます。


<増える自転車と歩行者の事故>
 平成22年の全国の交通事故の件数は725,773件で、そのうち自転車関連事故の件数は151,626件で全体の約20%に相当します。その件数は、10年前(173,876件)と比べて0.87倍に減少していますが、相手当事者別に10年前と比べてみると、対自動車は0.85倍と減少している一方で、対歩行者では1.51倍と増加していることがわかります。
(「平成22年中の交通事故の発生状況」警察庁統計データより)


自転車関連事故の相手当事者別交通事故件数の推移

<中高生が事故の加害者に>
 最近の自転車事故のニュースで目立つのは、中高生が加害者になるケースです。中高生の乗った自転車と歩行中の高齢者の事故で、高齢者に重大な障害が残ったケースもあります。これらの事故の原因は、携帯電話の操作による手放し運転や無灯火、一時停止無視などが原因で自転車側の過失が重くみられ、中高生に対して多額の賠償額の判決が下された例もあります。
 今年のキッズデザイン賞で審査委員長特別賞を受賞した作品に『自転車事故防止学習企画』があります。これは個人賠償責任保険において、近年中高生による自転車事故の高額賠償請求が増えていることから、中高生を対象とした自転車事故防止の教育教材とカリキュラムを提供して事故の予防と低減化を目指している企画です。その内容は、自転車運転安全度チェックに始まり、自転車事故の現状(統計データ)、自転車事故で問われる責任から、事故を未然に防ぐためについての内容が盛り込まれています。
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自転車事故防止学習企画

自転車事故防止学習企画


<未就学児の被害は頭部への損傷>
 次に、自転車事故での被害者のケースについてみてみます。自転車乗車中の死者および負傷者数を年齢別にみると、負傷者では、若年に次いで子どもが多く、さらに損傷部位について解析してみると、6歳未満の同乗中の幼児は、頭部損傷が全体の40%も占めていることがわかります。


自転車乗車中の年齢別・損傷部位別死傷者数(平成22年)

 昨年のキッズデザイン賞で経済産業大臣賞を受賞した作品に『チャイルドメットシリーズ』という子ども用ヘルメットがあります。これは、日本人の幼児の頭の寸法の計測結果と、ダミー人形を用いた転倒実験により日本人の子どもに合った安全性の高い製品で、その科学的データに基づく開発が高く評価されました。
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チャイルドメットシリーズ

チャイルドメットシリーズ


<対自動車に向けて>
 今は、自転車の歩道走行における歩行者との事故に目が向けられていますが、首都圏の道路交通事情を鑑みると、これから自転車の車道通行量が増えると、今度は自転車と自動車の事故が増加することが懸念されます。現在でも視認性の悪い夜間には自転車の交通事故が多い傾向にあります。
 2009年のキッズデザイン賞の受賞作品に『パノラマハイフラッシャー』という自転車のライトシステムがあります。この作品は、ハンドルやテールランプの高い位置でライトを光らせ、LEDを使い360度の広い視認性を持たせました。その開発の背景は、「自転車の乗り手視点からではなく、自動車のドライバー視点で製品を考えた」点で優れたものがありました。
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パノラマハイフラッシャー

パノラマハイフラッシャー


 今後、環境問題や省エネ対策の視点から益々自転車の利用が増えてくると考えられます。自転車運転のマナーやルールを守ることと、自転車専用道路や自転車レーンの整備が相まって、歩行者にとっても自転車にとっても安全で安心な社会になることを期待します。

青山 勝博

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